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室生犀星「碓氷山上之月」⑪襖一枚

2026.10.25

【室生犀星「碓氷山上之月」⑪襖一枚】

 はじめ澄江堂(ちょうこうどう)と
襖(ふすま)合せでは
おたがひに仕事の都合が
わるくないかと思つたが、
一しよにゐると澄江堂といふひとは
よくできた人物だと思つた。

却(かえ)つて襖どなりで
お茶にしやうかとこちらで言ふと、
又、向ふから少し步かうかと言ひ、
すこしも氣が置けなかつた。

晚、予は予の規則をまもるために
九時半には床へ這入つたが、
澄江堂は応接室へ行つて
かへつてくるのにも、
靜かに雨戶をあけて帰つた。

 「また客か?――」

 さう寢床から聲をかけると、
 「眼がさめたのか。――」
 と言つた。

 「いや、まだ起きてゐたのだ。
よくお客があるな。」

 澄江堂は間もなく仕事を初める。
……予はねむるのである。

こんな風に暮しが反対であつたが、
そのもたれが無かつた夜中であつた。

 予が厠へ縁側づたひにゆくと、
澄江堂が縁側にある
お湯を取りに出るのと
一しよであつた。

両方でびつくりした。

 「わあ――」
 「ああびつくりした。」

(九日、七十八度)

⸻

画像は
芥川龍之介が愛した追分宿にある、
追分宿郷土館の入口です。

この日犀星は、
特に書くことが
無かったのでしょう。

芥川龍之介が、
ネタになってしまっています。

そして夏を共に過ごす、
家族のようでもあります。

これだけ強烈な個性を持つ
2人の作家が
襖一枚の隣同士で
気楽に過ごせるというのが
不思議なくらいですが、
それだけ互いに
気が合ったということなのでしょう。

そして犀星も芥川も、
堀辰雄を非常に可愛がったところも
同じです。

そんな犀星は恐らく、
芥川が片山廣子に惚れてしまったのを
見抜いていたと思います。

ちなみに華氏七十八度は、
摂氏約26.5℃です。

撮影日20251021
投稿日20261025

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