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堀辰雄「美しい村」⑪「美しい村」梅雨

2026.07.24

【堀辰雄「美しい村」⑪「美しい村」梅雨】

雨が降り出した。

そうしてそれは
降り続いた。

とうとう梅雨期に
入ったのだった。

そんな雨がちょっと
小止(おやみ)になり、
峠の方が薄明るくなって、
そのまま晴れ上るかと思うと、
峠の向側からやっと
匍(は)い上って来たように見える
濃霧が、峠の上方一面にかぶさり、
やがてその霧が
さあと一気に駈け下りて来て、
忽たちまち村全帯の上に
拡(ひろ)がるのであった。

どうかすると、
そういう霧がずんずん
薄らいで行って、
雲の割れ目から
菫色(すみれいろ)の空が
ちらりと見えるような
こともあったが、
それはほんの一瞬間きりで、
霧はまた次第に濃くなって、
それが何時(いつ)の間にか
小雨こさめに変ってしまっていた。

 私はその暗い雲の割れ目から
ちらりと見える、
何とも言えずに綺麗きれいな、
その菫色が
たまらなく好きであった。

そうしてそれは、
殆(ほと)んど
日課のようにしていた長い散歩が
雨のために出来なくなっている
私にとっては、
たとえ一瞬間にもしろ
それが見られたら、
それだけでもその日の
無聊(ぶりょう)が
償つぐなわれたようにさえ
思われた程ほどであった。

(堀辰雄「美しい村」より)

画像は、
セゾン現代美術館の北にある
里池です。

ところで堀辰雄が
結核を患いながらも
48歳まで生きられたのは、
雨さえ降っていなければ
天然の浄化装置である緑の中を
せっせと歩き続けたからかもしれない
と思います。

ちなみに軽井沢で
霧が多いのは、
関東平野を渡ってきた
太平洋からの海風が
碓氷峠にぶつかり急上昇するため。

そのせいか
追分宿を過ぎると
佐久平の気候に近くなり、
カラッと晴れていることが
よくあります。

撮影日20260628
投稿日20260724

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