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堀辰雄「美しい村」⑧「美しい村」野薔薇

2026.07.21

【堀辰雄「美しい村」⑧「美しい村」野薔薇】

私は再び霧のなかの道を、
神々しいような
薄光りに包まれながら、
いくら歩いても
ちっとも自分の体が進まないような
もどかしさを感じながら、
あてもなく歩き続けていた。

私の心はさっき霧の中から
私を訴えるような眼つきで見上げた
野薔薇のことで一杯になっていた。

私はそれらの白い小さな花を
私の詩のために
さんざん使って置きながら、
今日までその本物を
ろくすっぽ見もしなかったけれど、
今度こそ、
私もそれらの花に対して
私のありったけの誠実を
示すことの出来る機会の
来つつあることを心から喜んでいた。

そしてそのための
私の歓(よろこ)ばしさと言ったら、
昔の詩人等が
野薔薇のために歌った詩句を、
口ずさむなんと言うのではなく、
それを知っているだけ
残らず大きな声で
呶鳴(どな)り散らしたいような
衝動にまで、
私を駈(か)り立てるのであった。

(堀辰雄「美しい村」より)

画像は6月のバラです。

ところで堀辰雄は
「美しい村」で、
バラの意識や
眼差しについて書いています。

バラの妖精を、
感じていたのでしょうか。

堀辰雄が
多くの読者から愛され、
また堀自身が
軽井沢を愛した理由が
この感性にあるかもしれません。

撮影日20190622
投稿日20260721

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