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堀辰雄「美しい村」①「序曲」ツツジ

2026.07.14

【堀辰雄「美しい村」①「序曲」ツツジ】

序曲
六月十日

・・・

どこへ行っても
野薔薇(のばら)がまだ小さな
硬い白い蕾をつけています。

それの咲くのが
待ち遠しくてなりません。

これがこれから咲き乱れて、
いいにおいをさせて、
それからそれが散るころ、
やっと避暑客たちが
入り込こんでくることでしょう。

こういう夏場だけ
人の集まってくる高原の、
その季節に先立って花をさかせ、
そしてその美しい花を
誰にも見られずに
散って行ってしまう
さまざまな花
(たとえばこれから咲こうとする
野薔薇もそうだし、
どこへ行っても
今を盛りに咲いている
躑躅(つつじ)もそうですが)
――そういう人馴(ひとな)れない、
いかにも野生の花らしい花を、
これから僕ひとりきりで
思う存分に愛玩(あいがん)しよう
という気持は
(何故なぜなら村の人々は
いま夏場の用意に忙いそがしくて、
そんな花なぞを
見てはいられませんから)
何ともいえずに
爽(さわや)かで幸福です。

どうぞ、
都会にいたたまれないで
こんな田舎暮らしを
するようなことになっている僕を
不幸だとばかり
お考えなさらないで下さい。

(堀辰雄「美しい村 序曲」より)

2026年7月14日、
画像は軽井沢野鳥の森の
アカゲラ休憩所とヤマツツジです。

ところで
1923年以降
毎年のように
軽井沢を訪れていた堀辰雄は、
1933年も6月から9月にかけて
軽井沢のつるや旅館で
滞在します。

引用した
「美しい村」の「序曲」は当初、
「山からの手紙」というタイトルで
1933年6月に
発表されました。

堀辰雄の筆からは、
初夏の軽井沢の美しさと
そこで過ごす喜びが
ほとばしり出ているように
感じられます。

撮影日20260617

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