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神西清「高原の人」②堀辰雄と聖母

2026.07.10

【神西清「高原の人」②堀辰雄と聖母】

病床の堀辰雄は、
じつにたくさん本を読む。

不眠の夜々に
多恵子夫人に読んでもらつたり、
また片手で支へて
ゐられるやうな軽い本ならば、
昼間じぶんで読むのである。

その軽い書冊といふ要請から、
彼の身辺にはこの二三年来、
めざましい勢ひで
唐本仕立ての漢籍類がふえた。

李長吉の詩巻、
宋代の詞の集、
乾隆版歴朝名詩詞など、
さうしたおびただしい
藍色の帙(ちつ)の堆積は
ほとんど床の間を埋めつくして、
壁間にかかげてある
フラ・アンジェリコの聖者の図や、
ボッチチェリの聖母戴冠の図や、
倉敷の美術館にある
グレコの「受胎告知」の
みごとな大型の複製図などと、
奇妙なコントラストを形づくっている。

(神西清「高原の人」より)

7月10日午前8時、
気温22.8℃、晴れ。

画像は
浅間山の登山口、
高峰高原(標高1966m)の
ニッコウキスゲ(日光黄菅)です。

毎年7月半ばに開花する
この花の和名は、
ゼンテイカ(禅庭花)。

ユリに似ていますが、
ワスレグサ科の植物です。

ところで堀辰雄とは
旧制第一高等学校時代からの
親友だった
神西清(じんざい きよし)によると、
晩年の堀の部屋は
絵に描かれた天の神や聖母、
大天使、天使、聖者らで
あふれていたようです。

堀がキリストと出会ったのが
いつなのかは、
分かりません。

しかし
帝国主義批判をした後
「彼は彼自身彼の病源を承知してゐた。
それは彼自身を恥ぢると共に
彼等を恐れる心もちだつた。
彼等を、
――彼の軽蔑してゐた社会を!」
(『或阿呆の一生』より)
と述べ、
心理的に追い込まれて
自死に至った芥川の
対局にある存在として、
堀はキリストを見出したのでは
ないでしょうか。

なぜならキリストは
自分の発言は大祭司らの怒りを買い、
最も苦しい方法で
処刑されることになると
あらかじめ知りながら
真実を述べ続けたからです。

堀は芥川の死から4年経った
1931年の夏に書いた「恢復期」で
ゴルゴダを予言する
詩篇22篇を取り上げていますが、
キリストの到来と磔刑は
詩篇だけではなく
預言者イザヤによっても
詳細に語られています。

それを熟知しながら、
つまり最後に何が起こるかを
知りながら
キリストや聖母は
生きたということです。

結核で寝た切りとなった
晩年の堀の寝室のに
聖母らが並んでいたのは、
苦しみに立ち向かう力を
そこから汲み取りたいと
思っていたからかもしれないと
筆者は想像します。

撮影日20230717

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