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神西清「高原の人」①堀辰雄と芥川龍之介

2026.07.09

【神西清「高原の人」①堀辰雄と芥川龍之介】

その床の間に、
ことしの七月の末に行ってみたら、
見馴れぬ小幅がかかっていた。

近よつて眺めると、

 わが門のうすくらがりに人のゐて
 あくびせるにも驚く我は

病中偶成 龍之介

とあった。

おそらく絶筆かと思われる
芥川さんの墨蹟である。

ーー芥川さんの命日には、
それを掛けることにしてゐるんだよ。

と堀辰雄は、
ぽつりと言つてじつと眼をつぶつた。

なるほどさう言われてみれば、
その日はちやうど
我鬼忌にあたる七月二十四日だった。

(神西清「高原の人」より)

7月9日午前8時、
気温20.9℃、

画像は、
堀辰雄宅がある
中山道追分宿です。

ところで引用した
神西清(じんざい きよし)は
1903年生まれの
小説家で詩人、
ロシア文学者です。

堀辰雄とは
旧制第一高等学校時代からの
親友で、
堀の没後は
「堀辰雄全集」の編集を行いました。

神西は偶然
芥川龍之介の命日である
我鬼忌(がきき)に、
堀宅を訪れたということでしょう。

我鬼は芥川の俳号。

彼の命日は
河童忌とも呼ばれ、
いずれも俳句の
季語になっています。

堀が持っていた歌は、
「門の近くで
見知らぬ人があくびをしただけで
驚かされた」
というもの。

晩年の芥川の、
神経過敏で
追い詰められた心境が
よくにじみ出ています。

というか芥川は
「自分は危険人物として
当局から監視を受けている」
と認識し、
「いずれ策謀により連行されるのでは」
という恐怖を
感じていたのではないでしょうか。

そしてそのことを
堀辰雄には
打ち明けていたので、
この絶筆を
送ったのではないかと、
筆者は想像します。

撮影日20260531

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