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追分宿の恋人たちと堀辰雄文学

2026.06.14

【追分の恋人たちと堀辰雄文学】

私たちはとうとう
村はずれの岐(わか)れ道まで来た。

北よりには浅間山が
まだ一面に雨雲をかぶりながら、
その赤らんだ肌をところどころ覗かせていた。

しかし南の方はもうすっかり晴れ渡り、
いつもよりちかぢかと見える
真向うの小山の上に
捲き雲が一かたまり
残っているきりだった。

私たちが其処にぼんやりと立ったまま、
気持よさそうにつめたい風に吹かれていると、
丁度その瞬間、
その真向うの小山のてっぺんから
少し手前の松林にかけて、
あたかもそれを
待ち設けでもしていたかのように、
一すじの虹がほのかに見えだした。

「まあ綺麗な虹だこと……」
思わずそう口に出しながら
私はパラソルのなかからそれを見上げた。

森さんも私のそばに立ったまま、
まぶしそうにその虹を見上げていた。

そうして何だか非常に穏かな、
そのくせ妙に
興奮なさっていらっしゃるような
面持をしていられた。

(堀辰雄「菜緒子 楡の章」より)

6月14日午前8時、
気温は16.4℃、晴れ。

画像は追分宿の西の端、
「分去(わかさ)れ」近くにある
江戸時代の
枡形(ますがた)の茶屋
「つがるや」から、
追分宿を眺めたものです。

追分宿を通って
ここまで歩いてきた2人が、
虹を見上げる場面を
堀辰雄は美しく描写しています。

ここに登場する
「パラソルを差した三村夫人」
のモデルは、
堀辰雄の憧れの人であった
歌人でアイルランド文学翻訳家の
片山広子。

三村夫人と共に虹を見た
心の恋人
「森於菟彦(おとひこ)」は、
芥川龍之介がモデルとも
言われています。

撮影日20260531

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