【室生犀星「碓氷山上之月」⑥栗饅頭】
朝、あんまをとる。
澄江堂(ちょうこうどう)は
仕事をしてゐる。
あるだけの戶を
閉めきつてゐる。
予は開けてゐるが
反対である。
それから予は晚は
九時には床にはいるが、
澄江堂はたいがい
一時ごろ寢るらしく、
起きてゐるのか寢てゐるのか
分らないほど靜かである。
松村さんから大きな栗饅頭六つ、
紙に包んで女中にもたせて來る。
手のひらくらゐある大きさである。
澄江堂はその大きなのを一つ
昼飯後にたべる。
一たい食後にすぐ菓子をたべるのは
胃によくないと言つたが、
いつのまにか食べるやうになつた。
予が國から持つて來た金玉糖を
一つづつ食べるやうになつたのは、
甘好きの澄江堂の風習が
うつつてしまつたのらしい。
(室生犀星「碓氷山上之月」より)
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画像は
芥川龍之介が愛した、
追分宿の追分公園にある
「追分節発祥の地碑」です。
ところで
室生犀星は
「朝からあんま」なのですね。
朝型の犀星と
夜型の芥川龍之介の対比が、
面白いです。
そしてここにも
松村さんこと、
片山廣子との交流がでてきます。
片山から贈られたのは、
軽井沢のまんじゅうでしょうか。
一方
犀星が前日
松村さんに渡した菓子は、
「金玉糖」かもしれません。
「金玉糖」は、
寒天に砂糖を加えて煮詰めて固めた
京都由来の菓子です。
しかし金沢銘菓となると、
鯛や野菜をかたどった
華やかで軽い口当たりの
「金花糖」の可能性もあります。
いずれにせよ犀星は
自分用だけではなく、
贈る用にも持ってきていた
ということでしょう。
犀星はつるや旅館で
片山廣子に再会することを、
密かに楽しみにしていた
のではないかと思います。











