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室生犀星「碓氷山上之月」③父二人

2026.10.14

【室生犀星「碓氷山上之月」③父二人】

 「風蘭(ふうらん)や暑さいざよふ
石の肌はどうぢや。」

 澄江堂(ちょうこうどう)は
いつの間にか
予の田舍訛を覚(おぼえ)てしまつた。

が、また、
「どうも上の句がしつくりしないな。」
さう言いて、
「石菖(せきしょう)や暑さいざよふ……
これもいかん。」と言つた。

 「藤棚や暑さいざよふ……
これもいかん。」

 澄江堂は七へんばかり
上の句をなほし、
たばこをすぱすぱ喫つてゐる。

「日盛りや暑さいざよふ……
これもいかん。」と言つた。

かれはいかんいかんを
続けなりに言つた。

 午扱、堀辰雄君來る。
そして家の方で、
昨日朝子が乳を吐いて
一日泣き通してゐたと言つた。

又かと思ふ。
心すぐ暗くなる。

 「消化不良だね、
よく注意しないといけない。
葉書でも出しときたまへ。
そばにゐるやうに力になるものだよ。」

 澄江堂は湿布
その他の手当の話などをした。

(室生犀星「碓氷山上之月」より)

⸻

画像は、
初夏の藤棚です。

ところで今回引用したのは、
俳句推敲の場面。

プライドの高い作家は
推敲の過程を
人に見られるのを
嫌がると思いますが
芥川は犀星に対しては心を開き、
完全にリラックスしているのが
伝わってきます。

そして、
犀星の娘の体調不良の
心配までしています。

まさに家族思いの、
「よいお父さん」ですね。

こうしたやりとりを見て思うのは、
1924年の時点で
自殺の気配は
皆無であるということ。

芥川の死の真相について
過去の不倫関係に
原因を求める論評が
複数ありますが、
1924年夏の様子を見る限り
そうした若かりし頃の過ちが
自殺の直接的な要因ではないことは
一目瞭然です。

それどころか
天真爛漫とも言える
2人の様子を見ていると、
こちらまでほのぼのとした
気分になります。

撮影日20250515
投稿日20261014

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