【室生犀星「碓氷山上之月」②辰ちゃん子】
朝六時に起きる。
散步してかへつて來ても
澄江堂(ちょうこうどう)は
まだ床にゐる。
が、とくに眼をさましてゐるらしく
起きて出てくる。
「あゝよく寢た。……」
と云ふ。
よく寢たらしい顏附である。
澄江堂はパンとミルクの朝飯だが、
予はあたり前の朝のおぜんである。
この宿に五十幾人かの
避暑客はゐるが
みんなパンとミルクの朝飯である。
日本食は
予ひとりくらゐださうである。
パンとミルクで朝飯をたべると
茶がうまく飮めない。
も一つはパンとミルクで
朝飯をすますと
朝飯のかんじがしない。
あれは朝寢坊の
たべものだらうと考へた。
「この宿にゐる間だけ
パンとミルクにして、
家へかへると日本食ぢやないかな。」
さういふと澄江堂は
たいがいさうだらうと言つた。
「けふたつちやんこが來るが、
別の室をたのんで置いた。」
「たつこちやんが來たら
ホテルヘ行つて飯を食はう。」
たつちやんこを聞きちがへて
たつこちやんと澄江堂はいふ。
たつこちやんは少しをかしい。
その辰ちやんこは
此間から予の鄕里の家で
泊つてゐたのだが、
予が輕井澤へ行くのと
一日おくれて帰京するので、
こゝヘ途中下車をして
一泊することになつてゐるのである。
(室生犀星「碓氷山上之月」より)
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画像は、
芥川龍之介が愛した
追分宿の追分公園です。
ところで引用したのは、
「碓氷山上之月」の
八月四日の一部です。
室生犀星は堀辰雄のことを、
「辰ちゃんこ」と
愛情を込めて呼んでいました。
1989年(明治22年)生まれの犀星は
芥川龍之介より3歳、
堀辰雄と比べると15歳年上。
堀辰雄はこのとき、
第一高等学校の生徒でした。
堀を犀星に紹介したのは、
東京府第三中学校時代の校長だった
広瀬 雄(ひろせ たけし)です。
広瀬は犀星と同じ金沢出身で、
家も隣同士。
芥川龍之介が三中の一年生だったときの
担任で、
英語教師でもありました。
芥川の一高受験の際、
広瀬は自宅で
英語や文学を個人教授したそうです。
こうして見ると、
犀星、芥川、堀辰雄は
「グループソウル」なのかなと
いう気がします。
片山廣子や広瀬雄も含め、
この人たちは転生の中で
何度も家族や友人を
繰り返してきているのではないかと
筆者は思います。












