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芥川龍之介「軽井沢日記」①約束

2026.10.12

【芥川龍之介「軽井沢日記」①約束】

八月三日。
晴。
室生犀星来る。

午前四時軽井沢に着せし由。

「汽車の中で眠られなくつてね。
麦酒を一本飮んだけれども、
やつぱりちよつこしも
眠られなくつてね」と言ふ。

今日旧館の階下の部屋を去り、
犀星と共に「離れ」に移る。

窓前の他に噴水あり。

鬼ぜんまい、
荵(しのぶ)などの
簇(むらが)れる岩に
一條の白を吐けるを見る。

縁側に卷煙草を吸ひ居たる犀星、
倏(たちま)ち
嘆を発して曰(いわく)、
「噴水と云ふものは
小便によく似てゐるものだね。」
又曰、
「あんなに出続けに出てゐると、
腹か何か痛くなりさうだね。」

 犀星と共に晩涼を逐(お)ひ、
骨董屋、洋服屋などを覗き歩く。

微月(びげつ)天にあり。

日曜學校の前に至れば、
分別臭き亞米利加人、
両三人(りょうさんにん)
日本語の讃美歌を
高唱するを見る。

(芥川龍之介「軽井沢日記」より)

⸻

画像は、
軽井沢ユニオン・チャーチです。

ところで引用したのは、
1924年(大正13年)9月に発表された
芥川龍之介の「軽井沢日記」です。

それによると
8月3日の犀星の到着と同時に、
芥川龍之介は離れに移ります。

2人はつるやで、
共に夏を過ごす約束を
していたように思えます。

というか芥川は、
軽井沢の涼しさと快適さを
犀星に説かれて
初来軽する気に
なったのではないでしょうか。

2人が襖一枚の隣同士となったのは
昨日ご紹介した
室生犀星「碓氷山上之月」に
書かれていましたが、
このことからも
仲の良さが伺われます。

また庭の噴水について犀星は
「まるで誰か小便をしてゐるやうで、
見てゐるのが
呼吸(いき)苦しくなる」
と書いていましたが、
芥川の日記により
なぜ息苦しくなるのかが
分かりました。

なお
「碓氷山上之月」の8月4日の中に
「澄江堂はいつの間にか
予の田舍訛を覺てしまつた」
との一文がありますが、
「やつぱりちよつこしも
眠られなくつてね」
という金沢弁を
わざと書いているところにも
芥川の茶目っ気を感じます。

芥川の日記によると、
2人は涼しくなった夜に
散策に出かけたようです。

二、三人のアメリカ人が
日本語の讃美歌を歌っていた
というのも、
「宣教師の夏村」
ならではの風景ですね。

そして芥川らしい一言
「微月天にあり」に、
やられた
と唸らされました。

撮影日20230831
投稿日20261012

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