【片山廣子「翡翠」③アマツバメ】
朝風に霧はれゆけば山つばめ
木の葉の如く吹かれて舞ひぬ
山羊の子は流のふちの桑の葉も
はみ飽きたるか我により來る
(片山廣子「翡翠(かわせみ) 輕井澤にてよみける歌十四首」より)
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画像は、
黒斑山(くろふやま)から望む
浅間山です。
ところで
自然を描写する
片山廣子の歌は、
実に秀逸だと思います。
一首目、
軽井沢ではお馴染みの朝霧。
心地よい風と共に
青空が広がり、
その中を木の葉のように
ツバメが舞っている。
しかし片山はここで、
「山つばめ」と書いています。
町中でよくみる
普通のツバメではないということを、
強調しているのです。
筆者はこれは、
「アマツバメ」のことではないかと
思います。
(ヤマツバメという鳥はいません)
▼町中でよく見る普通のツバメ
(スズメ目ツバメ科)が
翼開長32cm
時速50kmほどで飛ぶのに対し、
▼アマツバメ
(アマツバメ目アマツバメ科)は
翼開長43cmで一回り大きく、
時速100kmほどで飛びまわります。
(最高速度は時速170kmほどとも
言われています)
筆者は森林限界を超えた
高山帯の岩場で
何度かアマツバメの群れに
遭遇したことがありますが、
その速さと迫力に圧倒されました。
鋭い羽のシルエットが
鎌のように見えるため
「鎌燕」と呼ぶ地方もあるそうですが、
片山廣子もアマツバメを見て驚き
誰かにあの鳥は何かと
尋ねたのではないでしょうか。
そのとき村人から
「学者のセンセイに
聞いたわけではないけれど、
あの鳥は普段は高山にしかいないから
ワシらは山ツバメと呼んでいる」
と言われたのではないかと
想像します。
(軽井沢でも
上空を飛行しているのが、
時折目撃されています)
さらに片山は、
「木の葉の如く吹かれて舞ひぬ」
と言っています。
ツバメの飛行速度である
時速50kmは、
秒速14mほど。
しかしアマツバメの飛行速度
時速100kmなら
秒速28mほど。
風速14mでも木の葉は舞うでしょうが
風速28mなら台風並みですから
木の葉は重力を失い、
ツバメのように真横や上空に
舞い上がるでしょう。
そんなことからこの歌は、
アマツバメを見た感動を
詠んだものではないかと
筆者は想像しているのです。
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ちなみにアマツバメは睡眠も食事も
飛んだまま行い、
3ヶ月間飛び続けた個体も
あったそうです。
翼が長く地面に降りると
再び飛び立つことが出来ないので、
切り立った崖に止まり
そこから落ちる形で
滑空します。
浅間山は
垂直に近い崖が
至る所に有りますから、
アマツバメは
火口やカルデラ壁付近で
群れで飛び回っているのが
しばしば目撃されています。
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二首目は
解説が要らないほど分かりやすく、
かつ愛らしい歌です。
ツバメと山羊、
空と川、
遠くと近く、
動と静の対比が鮮明で、
歌をこの順序に並べた
片山の意図が透けて見えます。











