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堀辰雄「菜穂子 楡の家 第二部」③後悔

2026.09.20

【堀辰雄「菜穂子 楡の家 第二部」③後悔】

 森さんの孤独な死について、
私がともかくもそんな事を
半ば後悔めいた気持で
いろいろ考え得られるように
なったのは、
その朝の新聞を見るなり、
急に胸を
圧(お)しつけられるようになって、
気味悪いほど冷汗を掻いたまま、
しばらく長椅子の上に倒れていた、
そんな突然私を怯おびやかした
胸の発作がどうにか
鎮まってからであった。

 思えば、
それが私の狭心症の
最初の軽微な発作だったのだろうが、
それまではそれについて
何んの予兆もなかったので、
そのときはただ自分の
驚愕きょうがくのためかと思った。

そのとき自分の家に
私ひとりきりであったのが
却(かえ)って私には
その発作に対して
無頓着(むとんじゃく)で
いさせたのだ。

私は女中も呼ばず、
しばらく一人で我慢していてから、
やがてすぐ元通りになった。

私はそのことは
誰にも云わなかった。……

(堀辰雄「楡の家 第二部」より)

ー

画像は
旧軽井沢銀座商店街の近く、
片山廣子の別荘があった付近です。

堀辰雄は、
アイルランド文学翻訳者で
芥川の心の恋人だった
片山廣子から、
様々な話を聞いたのでしょう。

そしてそれを書く
使命のようなものを、
感じていたのかもしれません。

例えば堀辰雄が
1930年に発表した「聖家族」で、
堀は片山廣子をモデルとした
細木夫人に
以下のように語らせています。

※九鬼のモデルが芥川龍之介で、
河野扁理(こうのへんり)の
モデルが堀辰雄。

ー

「それはあの方には
九鬼さんが憑(つ)いてゐなさるかも
知れないわ。
けれども、
そのために反つてあの方は
救はれるのぢやなくつて?」

 河野扁理にはじめて會つた時から、
夫人に、
彼の生のなかには
九鬼の死が緯(よこいと)のやうに
織りまざつてゐることを、
そしてそれが彼をして
死に見入ることによつて
生がやうやく分るやうな
不幸な青年にさせてゐることを
見拔かせたところの、
一種の鋭い直覺が、
いま再び彼女のなかに蘇つて來ながら、
さういふ扁理の不幸を
絹子に理解させるためには、
いま言つたやうなごく簡單な
逆説パラドツクスだけで
充分であることを
彼女に知らせたのだ。

(堀辰雄「聖家族」より)

ー

堀辰雄の作品を読んでいると、
彼には本当に芥川龍之介が
「憑いていた」のかもしれないと
いう気にさせられます。

撮影日20260709
投稿日20260920

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